社長、その契約大丈夫ですか? トラック会社が見落としがちな取適法の義務と使える権利

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社長、その契約大丈夫ですか? トラック会社が見落としがちな取適法の義務と使える権利

運送事業者も委託事業者になりうる?取適法の権利と4つの義務

「正直、また法改正か……」と思われた経営者の方も多いかもしれません。

しかし、2026年1月から施行された「取適法(とりてきほう)」は、これまでの泣き寝入り構造を打破し、30台規模の運送会社が正当な対価を得るための強力な武器になります。

結論から申し上げます。以下が今後必須となる実務です。

  1. 委託元(荷主・元請け)の発注書の授受を徹底する(受託時)
  2. 自社が委託先(傭車)に発注する場合も発注書の授受も徹底する(委託時)
  3. 発注書類を「2年間」保管する(義務)
  4. 荷主・傭車先との契約書を見直す
  5. 社員に新しい「権利」と「義務」について研修を行う

これからは書面(データ)のない仕事は受けない・出さない。この徹底こそが、会社を守り、利益を確保する最短ルートです。

1.取適法で必要な実務とは?

旧下請法がアップデートされた取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)が、2026年1月1日より施行されました。

特筆すべきは、従来の下請法では曖昧だった「特定運送委託」という条項が明確に追加されたことです。これにより、荷主や元請けからの不当な要求に対して、法律を盾に交渉できるようになりました。

運送事業者が実務として対応すべき柱は以下の5点です。

  1. 委託元(荷主・元請け)の発注書の授受を徹底する(受託時)
  2. 自社が委託先(傭車)に発注する場合も発注書の授受も徹底する(委託時)
  3. 発注書類を「2年間」保管する(義務)
  4. 荷主・傭車先との契約書を見直す
  5. 社員に新しい「権利」と「義務」について研修を行う

「えー面倒くさい」
「なんで運送事業者側の私たちも発注書の授受とか教育とかしないといけないの?」
と思った方もいるのではないでしょうか?

皆さん、権利の裏には義務があるものです。

そう今回の法令の肝は受託事業者としての権利だけではなく、ご自身も委託事業者として「取適法」の義務の対象になるかもしれないということなんです。

2. 取適法を理解する必要がある理由

なぜ今、この法律を正しく理解しなければならないのでしょうか。

2.1、取適法の対象となる取引内容や事業規模とは?

取適法が適用されるかどうかは、図にある通り「①取引内容」と「②規模要件」の2つの条件を同時に満たすかどうかで決まります。

取適法の対象となる取引内容と企業規模の図 <出展:国土交通省『取適法の概要について』>

1. 取引内容のチェック(図の上段・青と赤の枠)

運送会社に関係するのは、主に以下の3つです。

  • 特定運送委託(今回の改正で新設):荷主(メーカーや販売業者)から、自社製品の配送を直接受託すること。
  • 役務提供委託:他の運送会社から運送業務を再委託(協力会社としての仕事)されること。
  • 保管:荷主から物品の倉庫保管を受託すること。

2. 規模要件のチェック(図の中段・緑の枠)

図にある通り、これまでの「資本金基準」に加えて、「従業員基準」が新設されたのが大きな変更点です。

  • 資本金: 委託側が「1,000万円超」で受託側が「1,000万円以下」といった、資本金の格差がある場合。
  • 従業員数(新設): 資本金の額に関わらず、委託側が300人超(サービス業等は100人超)で、受託側がそれ以下の規模であれば対象となります。

旧下請法では委託企業が受託企業に資本金を「1千万円以下」にするように指示したり、法の穴をつくような手段をとるケースもあったようです。
そこで登場したのが資本金とは関係なく従業員の人数で取適法の対象とする仕組みが組み込まれました。

さらに特定運送委託という仕組みが導入されたことで、以前は荷主からの運送委託を受けていた元請けには下請法が適用されなかった取引も対象に含まれるようになりました。

2.2.取適法で義務化されている「4つの義務」

委託事業者(親事業者)には、書面交付以外にも以下の義務が課されています。

義務の名称 内容
発注内容等の明示義務 発注時に、給付の内容、代金の額、支払期日、支払方法などを書面やメール(電磁的方法)で即座に明示しなければなりません。
支払期日を定める義務 物品の受領日(運送の完了日)から起算して60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定めなければなりません。
書類等の作成・保存義務 取引に関する記録を書類または電磁的記録として作成し、2年間保存する必要があります。
遅延利息を支払う義務 支払期日までに代金を支払わなかった場合、または不当に代金を減額した場合、遅延利息を支払う義務が生じます。

※国土交通省『取適法の概要について』より引用


2.2.1.補足貨物運送事業法の「書面交付義務化」と何が違うのか?

令和7年4月から先行して始まった「改正貨物自動車運送事業法」でも書面交付は義務化されています。
発注内容等の明示義務と内容は酷似していますが、決定的な違いは「保管期間」です。

法律名 書面の名称 保管期間
改正貨物自動車運送事業法 運送契約の書面(写し) 1年間
取適法(旧下請法) 取引に関する書類(発注書等) 2年間

実務上、運送事業法の様式を使って運用することに問題はありませんが、保管期間については、より長い「2年間」に統一して管理するのが正解です。
本法令は旧下請法との整合性も考慮した法令なんだなというのが分かりますよね。

2.3.禁止されている「11の遵守事項」一覧

委託事業者(親事業者)は、中小受託事業者(下請会社・1人親方)に対し、その合意があったとしても以下の行為をしてはなりません。

1. 受領拒否

受託側に責任がないのに、注文した運送の受け入れを拒むこと。
運送業の例:依頼していた配車を、当日になって「荷物がなくなったから」と無償でキャンセルする行為など。

2. 製造委託等代金の支払遅延

運送が完了した日から起算して60日以内に定めた支払期日までに、代金を全額支払わないこと。

3. 製造委託等代金の減額

受託側に責任がないのに、発注時に決めた代金を後から減らすこと。
運送業の例:振込手数料を勝手に差し引く、端数を切り捨てる、協力要請と称して一定率をカットする行為。

4. 返品

受領後に、受託側に責任がないのに物品を返品すること(運送業では主に製造・修理委託に関連します)。

5. 買いたたき

通常支払われる対価に比べ、著しく低い代金を不当に定めること。
運送業の例:燃料費や労務費の上昇が明らかなのに、協議せず一方的に低単価を強要する。

6. 購入・利用強制

正当な理由なく、親事業者が指定する物品(燃料、車両、制服等)やサービス(保険等)を強制的に買わせたり利用させたりすること。

7. 報復措置

違反行為を公正取引委員会や中小企業庁、または事業所管大臣(国土交通大臣など)に知らせたことを理由に、取引数量を減らしたり停止したりすること。

8. 有償支給原材料等の早期決済

原材料などを有償で提供している場合、受託者が納品した代金の支払日より前に、その原材料代を支払わせること。

9. 不当な経済上の利益の提供要請

自己のために、受託者に金銭、役務、その他の利益を不当に提供させること。
重要実例:契約にない「荷役作業(棚入れ・検品等)」の強要や、「2時間以上の長時間の荷待ち」を無償で行わせること。

10. 不当な給付内容の変更・やり直し

受託側に責任がないのに、発注内容を変更したり、作業のやり直しをさせて費用を負担しないこと。

11. 協議に応じない一方的な代金決定

コスト変動があった際、受託側からの価格協議の求めを無視したり、根拠を示さず一方的に価格を据え置いたりすること。

※国土交通省『取適法の概要について』より引用

以前の旧下請法では、運送業は「役務提供委託」という枠組みであり、「自社が引き受けた仕事を他社に再委託する(下請けに出す)」取引のみが対象でした。
そのため、メーカーなどの荷主(発荷主)から直接仕事を受けている「元請け」の立場では、どんなに不当な条件を押し付けられても、この法律で守られることはありませんでした。

しかし、新設された「特定運送委託」により、荷主から直接運送を受託する取引も取適法の対象となりました。

さて、これらを踏まえてじゃ、違反するとどうなるのかも解説していきたいと思います。

3. 実例から学ぶ「荷待ち・附帯業務の無償化」は許されない

センコーの事例:何が「アウト」だったのか?

この事例のポイントは、「荷主(または元請け)の都合による作業や待機を、当たり前のように無償でさせていたこと」が法律違反と断定された点です。

3.1. 違反の具体的な中身

公正取引委員会が指摘した行為は大きく2つです。

無償の荷役作業・附帯業務

本来の運送業務とは別に、自社施設内で検品、棚入れ、ラベル貼り、仕分けなどの作業を、下請事業者17名に対し無償で行わせていました。

長時間(2時間以上)の無償待機

自社の荷積みの準備が整っていないなどの「自社都合」により、下請事業者19名に対し、施設内で長時間(2時間以上)の荷待ちを無償で強いていました。

3.2. 「速やかに支払え」という勧告と金銭的インパクト

公正取引委員会はセンコーに対し、以下の厳しい命令を下しました。

・過去の費用を全額精算:無償で行わせた荷役作業や附帯業務、および長時間の荷待ちにかかった「費用相当額」を算出し、公正取引委員会の確認を得た上で、速やかに対象事業者に支払うことが命じられました。

・「14.6%」の延滞利息リスク:もし支払期日を超えて代金が支払われていないとみなされた場合、その未払い分に対して年率14.6%という高い料率での遅延利息を上乗せして支払わなければなりません。

3.3. 社会的信用の失墜と体制改善

項目 内容
取締役会での決議 違反行為を認め、二度と行わないことを取締役会で決議し、公表すること。
周知徹底 勧告内容を自社の役職員だけでなく、全取引先の下請事業者に対しても通知すること。
定期的な監査 今後違反が起きないよう、外部の監査や定期的な社内研修を実施すること。

従来のトラックGメンによる指導、会社名公表に加えて、公正取引委員会からの「勧告」という強烈なメスが入っているところからもこの法改正が強制力のある強力なものであることは明白です。

ご自身が受託事業者(傭車)としてお仕事を受けている場合にこれらの禁止事項に抵触する行為を委託先から指示があった場合は対象になるということです。

逆にご自身が委託事業者だった場合に無償役務や無償待機をさせると・・・どうなるのかということも同時に意識しないといけません。

4.これからの経営は「書面」と「記録」がすべて

取適法まとめ

「今までタダでやってくれていたから」「業界の慣習だから」という甘えは、今や年利14.6%の負債を抱える経営リスクに直結しています。
取適法は、正しく使えば中小運送会社にとっての「盾」となり、収益改善の「救世主」となります。

社長・管理者の皆様、今後は以下の対応を「自社の当たり前」にアップデートしてください。

4.1.今すぐ実行すべき「新・商慣習」リスト

  1. 委託元(荷主・元請け)の発注書の授受を徹底する(受託時)
  2. 自社が委託先(傭車)に発注する場合も発注書の授受も徹底する(委託時)
  3. 発注書類を「2年間」保管する(義務)
  4. 荷主・傭車先との契約書を見直す
  5. 社員に新しい「権利」と「義務」について研修を行う


<受ける時(対荷主)>

電話依頼の後には必ず内容を確認できるメールを送り、相手の承諾を得る。
「30分以上の荷待ち」や「附帯業務(棚入れ・検品等)」が発生する場合は、必ず書面にその内容と対価を明記させる。

<出す時(対協力会社・傭車)>

自社が「親」になる場合、振込手数料を相手に負担させず自社で負担する。

運送完了から60日以内に、必ず「現金」で全額支払う体制を整える。
協力会社のドライバーに「ついで作業」を無償で頼まない。

<守る時(自社実務)>

運送契約書や発注メール、荷待ちの記録などの「7条書類」は2年間確実に保存する。
全車両に対し、荷待ち時間や荷役作業の内容を乗務記録に正しく記載させるよう徹底する。

4.2.最後に

今回の法改正は、単なる事務作業の増加ではありません。荷主との対等な交渉を実現し、協力会社との健全な関係を維持するための、運送会社の「資産」となる証拠集めです。

書面(データ)のない仕事は受けない・出さない」。

このシンプルな徹底こそが、2026年以降の厳しい物流業界で生き残り、従業員の雇用と利益を守る唯一の道です。

法令遵守を徹底している姿勢は、荷主からの信頼、そして適正な運賃獲得へと必ずつながります。
さあ、今日から貴社の「当たり前」を変えていきましょう。

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